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1996年生まれによる短歌同人誌「ぬばたま」
2019年11月発行の第四号です。
●同人による連作
乾遥香 「永遠考」33首
岐阜亮司 「過去について」30首
篠田葉子 「呼吸器疾患」20首
初谷むい 「感光とその手続き」20首
佐々木遥 「途方のない人生」16首
廣川ちあき「東急ハンズに寄って帰る」12首
的野町子 「いいわけ」12首
大橋なぎ咲「学生短歌会合同合宿二〇一九夏」10首
久間木志瀬「人間図鑑」10首
松岡礼慈 「狂いなく」10首
●1996年生まれのゲスト連作
中野霞 「メイドインチャイナ」10首
●テーマ詠「黄」
●一首評
●前号評
平岡直子 「ぬばたま第三号について」
●●第四号掲載連作より●●
エスカレーターから降り立つひとりひとりをよく見る 正解はひとつだけ
100点の先にはなにもないけれど信号がありコンビニに寄る
サイレンがあなたをわたしから奪う そのときわたしが話してたこと
いない犬が散歩を嫌がるけど外に出る いない犬だから
本気のわたしの本気はあなたに見えなくてわたしの座っている夏の床
わたしがなにを話すべきかだんだんわかってくるこの生でなにを話すべきか
-乾遥香「永遠考」
そのころの僕は美術部だつたつけ灰皿に火を落としそこねる
好きだつたちやちな近所の公園のやうな女の子よ脱がされて
天使たちはしやぎ疲れてやすむそのそれぞれに透かされるうすいはね
晩秋のこたつでねむくなりながらするゲームみたい負けたつていい
-岐阜亮司「過去について」
あんな映画と思わなかった いつもより強くぶつかられるセンター街
世界、なんで処理落ちしないかわかんないとりあえず階段ぐるぐる登る
-廣川ちあき「東急ハンズに寄って帰る」
私より弱い奴ってロッカールームの虫くらいだよ 虫を殺す
サニーサイドダウンおまえに捩じ込んで記憶喪失の朝の光よ
-的野町子「いいわけ」
友達の頼むメニューを決めてやる毎日同じ服の私が
丼を食べきるまでにそば組の皆が話していたことだけど
友達が音読をするときの語気 飛べているのが謎のはばたき
-大橋なぎ咲「学生短歌会合同合宿二〇一九夏」
一日が終わって夜はあたりまえ拳をとけば硬貨の匂い
生殖もいらないくせに(だからかあ……)花火下半分澄みわたる
-久間木志瀬「人間図鑑」
無虫処理されてゆく野にほの光る蛍のような憎しみだった
真夜中にぼんやりと立つ自販機のテロを伝える一行ニュース
-松岡礼慈「狂いなく」
受領証渡し忘れて日が暮れて みんなそれぞれ海を見つけて
いつだってみずのしたたる音を持つ 有事のままでひとつになった
-中野霞「メイドインチャイナ」(ゲスト)
▽▽既刊について乾のレコメンド 2023.6▽▽
この第四号を出す文学フリマの三日前に笹井宏之賞の染野太朗賞をとったので、結果的に何かを受賞する前 最後の連作になったものが載っています。とても調子が良いときの33首です。もちろん今も好調ですが、短歌の世界の景気は悪くなりました。
この翌年の合宿は感染症の流行で中止されるので、結果的に学生として学生短歌会合同合宿に最後に参加した年の一冊でもあります。参加した同人は乾・岐阜・大橋。大橋による合宿連作も掲載。「学生短歌」に愛憎含めて思うところがある人はこういう話、面白いんじゃないでしょうか?
ぬばたま同人22〜23歳の作品を掲載。
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